研究・開発

シイタケのオガ封蝋種菌・アべマキ原木栽培と形成種菌・コナラ原木栽培における 収量性比較

シイタケのオガ封蝋種菌・アべマキ原木栽培と形成種菌・コナラ原木栽培における収量性比較
寺島 和寿

【緒言】
アベマキ(Quercus variabilis Blume)は主に東海から中国地方,九州・対馬に分布しています((国研)森林研究・整備機構, PRDB map).現在,シイタケ原木として最適樹種であるクヌギ・コナラ原木の不足が懸念されるなか,アベマキ等のコナラ属樹種のシイタケ原木への活用も,原木シイタケの生産拡大には重要であると考えています.一方で,アベマキは樹皮が非常に厚く,シイタケの原木として利用すると,形成種菌のほうが木駒種菌よりも収量が多いこと(大西ら1991),外皮をはく皮して使用すると収量が向上すること(田嶋ら, 2011)などが報告されてきましたが,収量性の品種間比較や植菌方法の検討は十分とは言えません.また,生産者の老齢化が進み,生産者人口が減少している中で,今後の原木シイタケの拡大には植菌作業の自動化も検討課題の一つと考えます.そこで,本研究では,自動植菌機でオガ種菌をアベマキ原木に植菌し,栽培した場合の各品種の収量特性について調査し,これまで菌蕈研究所で蓄積してきた形成種菌・コナラ原木栽培の収量特性との比較を行いました.

【方法】
原木樹種:アベマキ(約7cm~12cm)
供試品種:菌興115号(低中温型),菌興N115号(低中温型),菌興301号(中温型),菌興102号(低温型,試験菌・未販売)
種菌形態:オガ菌・封蝋(菌興椎茸協同組合において製造)
植菌本数:50本(10本×5反復)/品種
植菌穴数:48穴/本(6穴×8列)*植菌密度(高密度:6,100~6,700個/m3
自動植菌機機種:オガ式自動穿孔植菌機オガロボ2連式・FR21型((株)研友)
植菌時期:2020年4月上旬
伏せ場・ほだ場:鳥取市広岡の試験圃場(杉林)(標高: 約80m)
栽培管理:一般財団法人日本きのこセンターの圃場においての慣行法(1年目:仮伏せ・本伏せ・ほだ起こし・採取,乾燥,2年目:採取,乾燥)(日本きのこセンター,1986)
調査期間
1年目:2020年10月29日~2021年4月15日
2年目:2021年11月  2日~2022年4月12日
調査項目:0.1m3あたり乾重収量,0.1m3あたり秋期乾重収量(10-12月),一個乾重

【結果】
ほだ木齢毎の乾重収量・秋期乾重収量を図1に示します.この図から,アベマキ原木・オガ封蝋種菌を用いた場合の2年間収量は菌興N115号,菌興301号,菌興102号が菌興115号よりも多く,秋期乾重収量(1年目,2年目)でも菌興N115号,菌興301号が菌興115号よりも多いことが明らかになりました.

図1.アベマキ原木・オガ封蝋種菌を使用した栽培における各品種の乾重収量の比較

写真1. 菌興102号(試験菌)の二年ほだ木の発生状況 2022年3月16日撮影

次に,本研究結果(アベマキ原木・オガ封蝋種菌)と,これまで取得したコナラ原木・成型種菌の栽培データを比較(表1)し,各品種のアベマキ原木・オガ封蝋種菌適性を表2に示しました.

表1. 各品種のアベマキ原木・オガ封蝋種菌とコナラ原木・成型試験の収量性比較(原木0.1m3あたり) 

 

 

 

 


*コナラ原木・成型種菌による収量性は,菌興115号と菌興N115号では12回試作の平均値(寺島ら,2019)であり,
菌興301号では12回試作(寺島ら,未発表),菌興301号では9回試作の平均値(寺島ら,未発表)を用いた.

表2. 各品種のアベマキ原木・オガ封蝋種菌適性(コナラ原木・成型種菌との比較)

◎:アベマキ原木・オガ封蝋種菌 >  コナラ原木・成型種菌
〇:アベマキ原木・オガ封蝋種菌 ≒  コナラ原木・成型種菌
△:アベマキ原木・オガ封蝋種菌 <   コナラ原木・成型種菌

以上の結果に基づき,各品種の特性を以下に記載します.

菌興115号
・乾重収量:アベマキ・オガ封蝋とコナラ・成型では同等.1年目はコナラ・成型の方が多収.
・秋期乾重収量:コナラ・成型の方が多収.
・個重:アベマキ・オガ封蝋の方が1年目はやや大きく,2年目ではやや小さくなる.

菌興N115号
・乾重収量:アベマキ・オガ封蝋の方が多収.特に1年目の収量が増大.
・秋期乾重収量:アベマキ・オガ封蝋の方が多収.
・個重:アベマキ・オガ封蝋では乾重収量が多くなるため,かなり小さくなる.そのため適正な植菌数を検討する必要がある.

菌興301号
・乾重収量:アベマキ・オガ封蝋の方が多収.1年目はコナラ・成型の方が多収で,2年目はアベマキ・オガ封蝋の方が多収.
・秋期乾重収量:アベマキ・オガ封蝋の方が多収.
・個重:アベマキ・オガ封蝋とコナラ・成型では1年目は同等だが,アベマキ・オガ封蝋では2年目乾重収量が多くなるため,やや小さくなる.

菌興102号
・乾重収量:アベマキ・オガ封蝋の方が多収.
・秋期乾重収量: 低温性品種のためほとんど発生しない.
・個重:アベマキ・オガ封蝋とコナラ・成型では1年目は同等だが,アベマキ・オガ封蝋では2年目乾重収量が多くなるため,やや小さくなる.

【まとめ】
本研究ではアベマキ原木に自動植菌機でオガ種菌を植菌し,各品種の栽培特性を調査しました.本研究では直径7~12cmのアベマキ原木に一本当たり48個のオガ種菌を植菌しており,形成種菌の一般的な植菌数(直径の3倍:21~36個/本)に比較して,本研究での植菌数はかなり多いと思います.そのため,概して,乾重収量は多めで,一個乾重は小さめな値が得られていると思います.この点を考慮に入れると,アベマキ原木にオガ封蝋種菌を多孔で植菌する栽培方法では,菌興301号と菌興102号が適していることが示唆されました.ただし,菌興301号は1年目収量がコナラ原木・形成種菌の場合よりも少ないこと,菌興102号は低温型のため秋子が期待できないことに留意する必要があると思います.また,菌興N115号の1年目乾重収量は4品種で最も多くなりましたが,そのため一個乾重がかなり小さくなりました.一方で,植菌数を調整することで, 乾重収量は多収のまま,一個乾重を増大できる可能があると思います.
本研究結果は2年間での収量を取りまとめましたが,引き続き収量調査を継続していきます.菌蕈研究所では,主にコナラ原木を用いた栽培試験により品種選抜を実施していますが,品種・有望株についてはクヌギやアベマキ原木を用いた栽培特性調査も実施中です.今後も各種の原木樹種・種菌形態に関する品種の栽培特性を調査し,優良品種の開発を進めるとともに,生産地における収量増大に貢献していきたいと考えています.

【引用文献】
(国研)森林研究・整備機構・森林総合研究所環境影響チーム.アベマキ.植物社会学ルルベデータベースに基づく植物分布図(PRDB map)http://www.ffpri.affrc.go.jp/labs/prdb/abemaki.html
田嶋幸一,久林高市,副山浩幸,岩崎充則,堀口竜男,銭坪司剛,溝口哲生. 2011. アベマキでのシイタケ栽培試験 ―成形駒での発生特性―. 長崎農林技セ研報 2: 47~62.
大西好明,野中隆雄,酒向昇,橋場一義.1991. アベマキによるシイタケ栽培試験.岐阜森林研報.19:49-59
寺島和寿,佐々木明正,黒田誠,長谷部公三郎.2019. 菌興N115号の収量性について.菌蕈研報 49 :39-44.
日本きのこセンター(編). 1986. “シイタケ栽培の技術と経営”,  家の光協会, 東京, 220p.

(菌蕈研究所・上席主任研究員)

研究トピックス2023.5

 

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